1. TB6612FNGとは?:現代的な「Hブリッジ」の決定版
TB6612FNGは、2つのDCモーターを独立して制御できるデュアル・チャネルHブリッジ・モータードライバーです。

そもそも「Hブリッジ」とは何か
モーターを「正転」させるだけでなく「逆転」させたり「ブレーキ」をかけたりするには、電流の向きを自在に切り替える回路が必要です。
そのスイッチの形がアルファベットの「H」に似ていることからHブリッジと呼ばれます。TB6612FNGはこの複雑なスイッチング回路を、親指の爪ほどの小さなチップの中に2組凝縮しています。
2. なぜ「L298N」ではなく「TB6612FNG」なのか?
電子工作の初心者向けキットには、古くからL298Nという大型のモータードライバーが同梱されていることが多いです。しかし、現代の電子工作においてTB6612FNGが推奨されるのには明確な理由があります。
① 圧倒的な低発熱(MOSFETの恩恵)
L298Nは「バイポーラトランジスタ」という古い技術を使っています。これは動作中に電圧降下が大きく、その分が「熱」として逃げてしまいます。そのため、巨大なヒートシンク(放熱板)が不可欠でした。
一方、TB6612FNGは現代的なMOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)を採用しています。オン抵抗が極めて低いため、エネルギー効率が高く、ヒートシンクなしでも安定して動作します。
② 超小型・軽量
L298Nのモジュールが数センチ角の重厚な作りなのに対し、TB6612FNGのモジュール(Pololu製や秋月電子製など)は非常にコンパクトです。
スペースの限られたマイクロマウスや小型ドローン、スマホ制御のラジコンなどには、TB6612FNG一択と言っても過言ではありません。
③ 制御のしやすさ
後述しますが、TB6612FNGは「正転」「逆転」「ブレーキ」「空転」を2本のデジタルピンと1本のPWMピンで直感的に操作できます。
特に「ブレーキ機能」が優秀で、ピタッと止まるロボットを作りたい場合には非常に有利です。
3. TB6612FNGの主要スペック解説
スペック表を読み解くことで、自分のプロジェクトに適合するかどうかを判断しましょう。
-
動作電圧(VM): 最大15Vまで。一般的な3.7Vリチウムポリマー電池から、12Vの鉛蓄電池まで幅広く対応します。
-
ロジック電圧(VCC): 2.7V〜5.5V。Arduino(5V)でもESP32やRaspberry Pi(3.3V)でもそのまま使えます。
-
出力電流: チャンネルあたり連続1.2A(瞬間最大3.2A)。
-
ここが重要です。マブチモーター(130モーター)や小型のギヤードモーターを駆動するには十分ですが、大型のパワーモーターや高負荷のクローラーを動かすには電流不足になる可能性があります。その場合は「並列接続」を検討します。
-
-
PWM周波数: 最大100kHz。人間には聞こえない高い周波数で制御できるため、モーター特有の「ピー」という動作音を消すことが可能です。
4. プロが教える「TB6612FNG」使いこなしのコツ
単に配線して動かすだけでなく、より高度な制御を行うためのテクニックを紹介します。
スタンバイ(STBY)ピンの活用
TB6612FNGには「STBY」というピンがあります。ここをLowにすると、チップ全体が低電力モードに入ります。
バッテリー駆動のデバイスを作る場合、モーターを回さない間はこのピンをLowにしておくことで、待機電力を大幅に節約できます。初心者が忘れがちな「地味に重要なピン」です。
モーターをピタッと止める「ショートブレーキ」
モーターの止め方には2種類あります。
-
空転(Coast): 電源を切って惰性で止まる。
-
ブレーキ(Brake): モーターの両端を短絡させて急停止させる。 TB6612FNGは入力信号の組み合わせによって、この「ショートブレーキ」をかけることができます。
ライントレースロボットなどで、線の端でピタッと止まる必要がある場合には、このブレーキ設定が不可欠です。
電流を稼ぐ「パラレル接続」
「1.2Aじゃ足りないけど、どうしてもTB6612FNGのサイズ感を使いたい」という場合、2つのチャンネル(A側とB側)の入出力をそれぞれ束ねて1つのモーターに繋ぐ手法があります。これにより、理論上は2.4Aまでのモーターを駆動できるようになります。
5. 設計時の注意点:これだけは守って!
天才的なエンジニアでもミスをするポイントがあります。以下の2点は必ず守りましょう。
バイパスコンデンサをケチらない
モーターは動作時に大量のノイズ(電気的な汚れ)を発生させます。これが原因でマイコンがリセットされたり、センサーが誤作動したりすることがよくあります。
電源ライン(VMピン)の近くには必ず大きめの電解コンデンサ(100μF以上)と、ノイズ除去用の積層セラミックコンデンサ(0.1μF)を配置しましょう。
電源系統を分ける
「モーター用の電源」と「マイコン用の電源」は、たとえ同じバッテリーから取るとしても、配線を根元から分ける(スター結線)のが鉄則です。
モーターが回り始めた瞬間に電圧がドロップし、マイコンが落ちるというトラブルを未然に防げます。
6. まとめ:TB6612FNGは小型ロボットの「心臓」
TB6612FNGは、その効率の良さ、コンパクトさ、そして制御の柔軟性において、現在最もバランスの取れたモータードライバーICの一つです。
特に以下のような方におすすめです:
-
L298Nが大きすぎて基板に乗らない。
-
モーターを回すとドライバーが熱くなって心配。
-
ロボットの停止精度を高めたい。
-
ESP32などの3.3Vマイコンで直接制御したい。
電子工作のステップアップとして、この小さな「力持ち」を使いこなせるようになると、作れるデバイスの幅が一気に広がります。